研究概要

Economics team

プライシング

近年,スマートフォンやパソコン等の情報通信機器の普及に伴い,通信トラヒックが増加している.また,各通信事業者は,通信品質を確保するために,増加したトラヒックを処理するための設備投資が求められている.しかし,通信量は日中常に一定ではなく,トラヒックの多いピーク時間帯とトラヒックの少ないオフピーク時間帯に分けることができる.したがって,ピーク時間帯のトラヒックを処理するために設備投資をするとオフピーク時間帯で処理能力の余剰が発生し,コスト負担が増加する.つまり,ピーク時間帯とオフピーク時間帯におけるトラヒックの差を減少させることで,通信資源を効率的に利用することができると考えられる.そこで,ピーク時間帯とオフピーク時間帯のトラヒックの差を減らすために,時間依存料金(TDP:Time-Dependent Pricingなどといった通信料金決定法の研究が行われている.当研究室では,通信需要の分散を目的とした料金決定法の研究等を行っている.

Economics

トラヒックシフトの例

ゲーム理論

ネットワークにおいて,通信資源は有限であるため,限られた資源を無駄なく効率的に利用するにはどのように割り当てるかが課題となる.また,通信資源を複数の利用者で共有する通信モデルでは,資源の奪い合いなどが発生し,資源の枯渇などにつながり,全体としての損失をもたらす問題が発生することがある.これらの問題に対して,経済学の分野で用いられるゲーム理論を応用することで,通信における様々な問題の解明や解決を行う研究が行われている.ゲーム理論はプレーヤ戦略利得情報の4つの要素から構成され,2人以上のプレーヤの意思決定を分析する理論である.プレーヤはゲームを行う意思決定の主体,戦略はプレーヤが選択できる行動,利得はプレーヤが各戦略を選んだ時に得られる利益や便益,情報はどの戦略をとるとどのくらいの利得をになるかという情報を指す.当研究室では,通信における様々な問題をゲーム理論を用いてモデル化し,通信資源割当の最適化等を目的とした研究を行っている.

ユーザ行動

近年,移動体通信網や公衆無線LANなどが広く普及し,これらの利用者もまた著しく増加している.例えば,駅や空港といった交通機関,喫茶店やファーストフード点などの飲食店には,様々なアクセスポイントが設置され,また非常に多くの利用者が存在する.そのため,時間,場所,サービスにより利用者の分布に大きく偏りが生じる.このような環境下では,特定のアクセスポイントへ利用者が集中し,通信の干渉や輻輳などの問題が発生する可能性があり,各ユーザが接続すべきアクセスポイントを自律的に選択することは困難であると考えられる.本研究では,交通問題などを解決するために用いられるモビリティ・マネジメントを上述した問題に応用し,ユーザの意識や行動を自発的に変化させるユーザ誘導の研究を行っている.効率的なユーザ誘導を実現するためには,各ユーザの行動や環境等を考慮する必要があり,例えば,より良い通信品質を得るためならば,ユーザはどの程度の距離の移動を許容できるかといった点などが重要となる.そのため,工学的な手法のみにとらわれず,ユーザの行動や環境など様々な要因を考慮し,通信資源の効率的利用を促すための研究を行っている.

ユーザ体感品質(QoE:Quality of Experience)

固定通信網と移動体通信網の発達や,スマートフォン,タブレット,小型のノートPCといった高機能な携帯端末の普及により時間や場所を問わず通信サービスを享受することが可能となっている.これに伴い,各ユーザが利用する通信サービスは多様化しており,各ユーザ自身の環境,目的,行動もまた様々なものとなっている.従来の通信サービスでは,パケット損失や通信遅延などの客観的な品質を評価指標としたサービス品質(QoS:Quality of Serviceに基づく通信制御が行われてきた.しかし,同一のQoSであった場合にも,ユーザを取り巻く環境やユーザの心理状態などに応じて,各ユーザが体感するサービスの品質は大きく変化する.この点に着目し,各ユーザが主観的に認識する品質を評価指標としたユーザ体感品質(QoE:Quality of Experienceが近年注目されている.当研究室では,実環境的な要因や心理的な要因などの様々な要因がQoEに与える影響等についての研究,QoEを考慮した通信制御を行うことでユーザがより快適に通信サービスを享受できるようにするための研究を行っている.

Economics

QoSとQoE

Wireless team

無線アドホックネットワーク

イベント会場などでは,コンテンツ配布や参加者が利用する無線LANなどのために,事前に通信設備の増強等が必要となることがある.また,大規模な災害などが発生した際に,既存の通信網が破壊され利用が不可能となることが想定され,被災者同士の連絡や安否情報などの情報共有の手段が必要となる.これらのような環境下において,既存のインフラに依らない通信手段として,無線アドホックネットワークが検討されている.無線アドホックネットワークは,スマートフォンやラップトップPCなどの可搬端末を用いて,各端末同士が直接,もしくは通信を中継することで固定インフラを必要としない自律分散的なネットワークを構築する.しかし,各端末が移動可能であることから,アドホックネットワークではトポロジーの変化により通信経路が一定でなく,動的に経路を構築する必要がある.当研究室では,効率的で堅牢なアドホックネットワークを実現するため,端末の移動や各端末の負荷を考慮した経路制御や通信の信頼性・安定性を確保するための汎用的な制御方式,被災地や車車間などの特定の環境や状況に特化した制御方式の両面から研究を行っている.

車車間通信

近年,車車間で周辺情報の共有や緊急情報の拡散等を行う手段として,車に搭載した無線端末を利用してアドホックネットワークを形成する車車間通信(VANET: Vehicular Ad Hoc Network)が研究されている.一般的なモバイルアドホックネットワークでは,端末が自由に移動するが,VANETでは車の移動がほとんど道路上に限定されることや,信号機,道路標識,地理的な条件などに従い移動を行うことから,ある程度規則的な移動性をもつという特徴がある.しかし,移動速度が比較的高いことから,VANETを周辺情報や緊急情報を交換する手段として用いる場合,低パケット損失率かつ低遅延な通信が要求される.当研究室では,上述した要求を満たし,円滑な周辺情報や緊急情報の共有や拡散等を目的とした車車間通信プロトコルの研究を行っている.

Opportunistic Routing

アドホックネットワークでは,通信を行う際にあて先となる端末までの経路を構築する必要がある.一般的にアドホックネットワークで用いられているAODV(Ad-hoc on-demand distance vector)などの経路制御プロトコルでは,パケットを送信する端末が,次ホップの中継端末を指定し,構築した経路に沿ってあて先端末までパケットを転送する.しかし,各端末は自由に移動することができるため,AODVなどのプロトコルではトポロジーが変化した際に経路の動的な変更や再構築を行う必要がある.そこで,特定の経路に依存せず,通信領域に存在する端末が自律的にパケットを転送するかどうかを判断するOpportunistic Routingが提案されている.無線通信では有線通信とは異なり,通信範囲内にいる端末は,自端末あてとなるパケットでなくとも,受信することが可能である.ORでは,この特徴を利用することで,中継端末を複数指定もしくは中継端末を指定せずにパケットを送信し,パケットの受信に成功した複数の端末をパケット転送に利用する.パケットを受信した端末は,自律的に転送すべきかどうかを判断することで,特定の経路を構築することなく,パケットを転送する.当研究室では,特にアドホック・センサネットワーク向けのOpportunistic Routingや,被災地などにおいてインフラとしての利用を目的とした,固定端末を考慮したOpportunistic Routing等の研究を行っている.